「師匠というのはですね。教えてくれる人、人生を導いてくれる人ですよ。問題があれば助けてくれる人……そういう存在です」
おれは黙って相手をを見つめた。この男の胸の中には癌が巣くってるんだと思うことにして、動きそうになる両手をじっと押さえつけたまま、ただ眉を吊り上げてみせた──よくわからんという意味だ。
「少年を愛する人間というのはきわめて特殊なんです」と男はいった。おごそかな口調だった。「それは少年たちが彼らを愛しているが故にです。これはきわめてユニークで特別の関係ですが、社会からはほとんど理解されていません」
「くわしく説明してください」おれはきいた。
「少年が大人の男性に性的な憧れを感じたとしたら、彼はそのときから容易ならぬ困難に直面します。世間は彼を理解しようとはしないからです──彼に対しては幾重にもドアが閉ざされるでしょう。この小さなつぼみを花開かせるのが献身的な師匠の仕事なのです。少年を男に成長させるのを手伝うのです」
「子どもがセックスするのを写真に撮って?」
「そんなに急いで決めつけないでください。さっきもいいましたが、本当の師匠なら商売にする目的でそういう写真を取ったりはしません。写真は、特異な美しさに満ちた瞬間をとっておくために撮られるのです。子どもは成長するものですからね」と彼はいった。その声は、どうしても避けられないものに対する悲しみで彩られていた。「彼らは若さを失います。情のこまやかな親なら、子どもの写真を撮っておくものじゃありませんか? 後になって、しみじみと眺めるために」
おれは返事をしなかった──情のこまやかな親がどうするかなんて知りようがなかったからだ。
「そういう写真はいちばんすばらしい時期のある瞬間を捉えています」と、男はいった。「写真は、完全な時代をいつまでもとどめておくための手段なのです。たとえ、その人が去ってしまった後でも」
「つまり、そういう人……おたくみたいな人は……写真を持っていたいというだけなんですか? 売ったりしないで」
「わたしが愛した少年は……その愛に報いてくれた子はどの子も……あなたには理解できないでしょうが、それなりの利益を得ているのです。彼はそう望むなら、わたしの翼の下で若者になり、大人になります。知識、精神の両面で教育を受けます。世に出る準備を最大限にしておくわけです。そういう少年にとって、わたしは人生を変える力を持った人間なのです。おわかりですか?」
「ええ」と答えた。今度は嘘ではなかった。
「そして、わたしは……少年たちの写真を撮ってきました。それによって、わたしたちは後々になっても、愛のイコンを見るという楽しみを与えられます。かつての愛ではありますが。少年が少年でいるのは、ほんとに短い間なのです」彼はそういった。声に悲しみがこもっていた。
「で、そういう写真は売ったりはしない?」
「もちろんです。わたしにはカネは必要ありません。ですが、それはどうでもいいことです。カネは愛をおとしめます……ほとんどはかりしれないほどにです。せっかくの結びつきをめちゃめちゃにしてしまいます……わたしはそういうことは絶対にしたくありません」
「すると、おたくが持っている写真は誰も見ることがない?」と、おれはきいた。
「わたしのサークル以外の人は」と、彼は答えた。「ごくたまに、わたしの少年たちの写真を、同好の士と交換することはあり得ます。ですが、絶対にカネのためじゃありません」
「写真を取り替えっこするってことですか? 野球カードみたいに?」
アンドリュー・ヴァクス『赤毛のストレーガ』
小児愛者というのは、インテリほど自分の行為を巧みに正当化するものだが、ほんとのところは実に簡単なんだ──自分のやっていることは間違っていると承知の上でやっているんだ
アンドリュー・ヴァクス『赤毛のストレーガ』
小児性愛者たちは慎重に”ゲイ”をよそおってきていて、大人同士の合意による同性愛への社会の容認を、子供のレイプにまで延長しようとしているのだ。いったい何人の小児性愛者が、”ゲイの活動家”を隠れ蓑にして、”まずユダヤ人がホモセクシュアルになった”という昔ながらの流言を利用してゲイを怯えさせ、”共同戦線”といったナンセンスに引き込んできたことか?
ゲイは幼児を犯すやつらを憎んでいる。その点は異性愛者と何ら変わりはない。
アンドリュー・ヴァクス『クリスタル』
変態どもは子どもたちを押さえつけるのにポルノを使う。それで本能的な抵抗を抑圧するのだ。これが当然だと思わせるのだ。敷居を低くして、子どもたちに踏み越えさせようというのだ。
嘘や失敗というのもそんなふうな働きをするようだ。それで魂が抜き取られることはなくても、最後まで戦うだけの支えがなくなることがある。
アンドリュー・ヴァクス『ハード・キャンディ』
「ほんとうにできると思うかい?」おれはイマキュラータにきいてみた。
「尋問とはちがうのよ、バーク。その子は、自分の身に何が起きたか知っているわ。だけど、それを話すのは彼にとってたいへんなことなの。彼はひどい目にあわされたことでいろんなことを感じているわ……罪、恐れ、興奮……」
「そうよ。子どもというのは性的な存在なのよ。性的な刺激に反応するわ。性的にいたぶられた子どもたちにちゃんと手当をしておかなきゃならないっていうのは、それが理由なの。そうしないと、その子はまた同じ経験を求めかねないから」
「そのとき傷つけられれたとしても?」
「ええ、それでもね」と彼女はいった。
「どうすりゃ彼にしゃべらせられる?」おれは尋ねた。
「しゃべらせることはできないわ。彼のほうからしゃべるのよ。自分の外に吐き出してしまおうとして……痛みを押させてね。でも、それではじめて安心するにちがいないわ」
「もう誰も傷つけることはできないってわけか?」
「そう。そのとおりよ」
アンドリュー・ヴァクス『赤毛のストレーガ』
ホーステンスは自分の子や孫の世代の子どもを里子として育てていた。焼却炉に捨てられても死ななかった赤ん坊から、死んだも同然の少女売春婦にいたるまでだ。実子はいなかったが、ホーステンスは何十人もの子どもの母親だった。そういう子どもの一人を、ホーステンスの男友だちがレイプした。プリンセスという名前の十二歳の娘だった。
おれは公判記録の写しを持っている。
- 問 プリンセスがレイプされたとあなたに訴えた後で、あなたは何かしましたか? したなら、それをいってみてください。
- 答 あいつに二度とおまえを傷つけたりさせないからねって、あの子にいってやりました。それから、あの子をわたしの部屋に運んで、ベッドに寝かしました。
- 問 ミスタ・ジェクソンと一緒に寝たベッドにですか?
- 答 あいつがあのベッドを使うことはもうないです。
- 問 というと?
- 答 わたしゃ、ジャクソンが帰ってくるのを待ちました。あいつはどこかに博打にいってました。あいつは帰ってくると、キッチンのテーブルに座りました。それで、わたしにビールを持ってこいっていいました。
- 問 あなたはビールを持っていったんですか?
- 答 はい。
- 問 では、次に何が起きたか、陪審に説明してください。
- 答 わたしゃ、あいつになんであんなことをしたのって訊きました。わたしゃ……
- 問 途中でさえぎって申し訳ないんですが、ミセズ・ブレイン。あなたは彼になんで子どもをレイプしたのかと訊いたんですね? ほんとにやったのか、ということじゃなくて。
- 答 あの子のベッドには血がついていたんですよ。
- 問 わかりました。続けてください。
- 答 わたしゃ、なんであんなことをしたのかって訊きました。あいつは、プリンセスもいずれ女になるんだからっていいました。傷つけるつもりはなかった。人生ってのがどんなもんか準備させとこうと思ったんだって、あいつはいいました。それから、わたしが働きに出ている間、あの子はナイトガウンで歩きまわるんだっていいました。あの子のほうから求めたんだともいいました。
- 問 彼がそういったとき、どんな表情をしていたか見ましたか?
- ミスタ・ヘインズ 異議があります。ただいまの質問は証人の推論を求めるものであります。
- ミスタ・デイヴィッドスン 表情の観察は推論ではありません、裁判長。
- ミスタ・ヘインズ 裁判長、被告人弁護士は根も葉もないうわさを持ち出そうとしております。これは死者の人格を貶めようとする試みであります。
- ミスタ・デイヴィッドスン 本法廷はすでにプリンセスから証言を得ております。それによって、暴行犯の人格がいかなるものかはすでに証明されております。
- ミスタ・ヘインズ 異議あり! ミスタ・ジャクソンは審判の対象ではありません。
- ミスタ・デイヴィッドスン そのとおりです。彼はすでに裁かれたのであります。
- 裁判官 みなさん、それについてはもういいでしょう。異議は却下します。
- 問 もう一度、うかがいます、ミセズ・ブレイン。彼がプリンセスをレイプしたと認めたとき、どんな表情をしていたか見ましたか?
- 答 はい。あいつはにやにやしてました。なんでもなかったように。
- ミスタ・ヘインズ 異議があります。
- 裁判官 却下します。
- 問 彼はほかに何かいってましたか?
- 答 あのガキはああされて当然だったんだっていいました。
- 問 それからどうなりました?
- 答 わたしゃ、包丁を手に取って、あいつの心臓を突き刺してやりました。
- 問 彼を殺すつもりだったんですか?
- 答 はい
- 問 なぜです?
- 答 そうすりゃ、もうわたしのベイビイを傷つけることもできなくなるからです。
アンドリュー・ヴァクス『ブルー・ベル』
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- 境界線 ~ 自分の感情的なスペース、自分の身体的なスペース
- 被害者が加害者から逃げるのではなく、加害者を被害者から切り離すこと
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- 多重被害者 ~ 被害とは出来事というよりも、そのような状態である
- レイプが性行為の一種ではなく、暴力犯罪の一種になったとき
- わが子を虐待した加害者を赦すべきか?
- ”子どものころに性虐待を受けたあなたへ”
- 性的虐待順応症候群
- 加害者は自分の性的な強迫行動を防衛するために、それを正当化する巧妙な知的システムを発展させる ~ いじめと性的虐待
- なぜ子どもが犯罪被害に遭いやすいことが広く認識されてこなかったのか ~ 相殺される被害と加害
- 聖ディンプナ - 彼女はレイプ、強制的な結婚、近親姦に抵抗した、そして彼女は精神的な病を患った人たちの守護聖人になった
- 性的虐待被害者に強いられる金銭的負担
- 恐怖構造の引き金は簡単に引かれ、消すことが難しい
- 接触のない性的虐待 ー 性的悪用、セクシュアリティの乱用、境界侵犯
- 〈自分が信頼できる人を選んでよいのだよ〉という保証を被害者に与えること
- なぜ子どもへの性的虐待加害者の行動原理を知らなければならない必要に駆られるのか。それはこの社会ではこれまでずっと被害者の声が無視されてきて、そしてこれからも被害者やその家族、友人、知人、支援者たちがいないことを前提にした「組織的暴力」によって被害者と加害者が同列に置かれ、時にまるで被害者らの心の痛みよりも加害者の欲望を優先させるかのような要求を突き付けられ、それによって被害者たちがさらに、これまで以上に、沈黙させられてしまうからだ──そのような世界の中にあっても居場所を探さなくてはならないからだ。
- 性的虐待への反応 ー 侵入思考、過覚醒、悪夢、夜驚、麻痺、再体験、解離、健忘、フラッシュバック
- 「性的裏切り」「性的虐待」「近親姦」「トラウマ」
- ミーガン法の弊害
- ぼくの話を聞いてほしい
- 標的の充足力、標的への敵意、標的の脆弱性 ~ 被害者学の視点から
- 沈黙の共謀 ~ 「誰にも言うなよ」と加害者が強いる沈黙、被害者が守ろうとする沈黙、そして被害者が語れない環境を温存している社会全体が培養する沈黙
- 児童期に性犯罪被害に遭わなかった幸福な人たちにあわせて社会をつくるのではなく、児童性的虐待被害者たちが暮らしやすい社会にするよう配慮すること
- デート中の出来事──少年と少女の性暴力
- セックス・リング 同一の加害者の下で複数の被害者が抱いてしまう共犯意識
- 「被害者の責務でしょう、あなたたちがやらないと変わりませんよ」 ~ 「泣き寝入り」という言葉の暴力
- 子どもの性的虐待の理解 ~ 虐待の程度および虐待の性質
- 女性による男児への性的虐待という現実と、女性による男性あるいは少年への性的虐待は定義上不可能であるという誤った「男性的」世界観の間で
- 日本における少年への性的虐待に対する社会的認知
- 「なぜ私は加害者の弁護をしないのか」 ~ 性暴力と法
- 二次的被害によるPTSD
- 性暴力表現の社会問題化による「調査者自身が受ける被害」
- クィアが他人の自由意思を奪い、クィアの名のもとに様々な恫喝を行い、それによってクィアに都合よく〈利用〉されること──小児性愛者とその利害関係者に〈利用〉されること、そのための〈クィア化〉に対して絶対に抵抗する。その加害の共犯になること/させられることに絶対に抗う。クィアによる「ペドフィリア・ウォッシング」、クィアが仕掛ける「ペドフィリア・ウォッシング」、クィアがそれを他人に強要し、それに加担を迫る「ペドフィリア・ウォッシング」に断固として抵抗する。
- 【クィア・ウォッシング】クィアの名のもとに、小児性愛者とその利害関係者に〈利用〉されることに対して絶対的に抵抗する──クィアによる恫喝、強要、それへの加担要求、すなわち「クィア・ウォッシング」に断固として抵抗する。
- クィアを標榜すればそれを望まぬ人たちに対して「性的な言動」を浴びせることが許されるのだろうか、クィアを標榜すればそれを望まぬ人たちに対して「直接的な性行為内容」をあらゆる場において受け入れるよう迫ることが許されるのだろうか、クィアを標榜すればそれを望まぬ人たちに対してペドファイルとその利害関係者の要求に従うよう恫喝することが許されるのだろうか