女性犯罪研究会編『性犯罪・被害 性犯罪規定の見直しに向けて』(尚学社)より
性的虐待を発見するきっかけには、被害者側のもの(非性器損傷・行動・特性)と加害者側のもの(行動・特性)と家庭に関するものが存在する。
(1) 性的虐待における損傷の特徴──非性器損傷
性虐待に伴う非性器損傷としては、大腿内側に圧倒的に多く、臀部、顔面・頭部、胸部・背部、上腕、膝、前腕・手、外陰周囲・脛部、首部・肩部の順に多い。
特に、下腹部より下にある挫傷、特に恥骨結合より外性器よりの挫傷は、性虐待の可能性が高い。
性虐待の損傷の形態的特徴としては、腕や肢などの筒状の部分を握って取り巻くような形の損傷、絞頸・扼頸に準じる動作(索状物・手を用いて頸部を締める)による目瞼の溢血点や頸部の索状痕、頸部・胸部の bite mark (キスマーク)、陰茎・会陰・肛門・陰唇の裂傷、接触熱傷(タバコ等)など。性虐待児に自傷行為が多いことも知られる。
しかし、上記事実の多くは、retrospective な観察報告によって得られた所見であり、例えば性虐待行為の行為前に既存の損傷が存在した場合も、性虐待による損傷として含まれることとなる。しかし、同様な prospective な観察研究を行うことが不可能であり、性虐待が反復行為であることからも、retrospective な観察結果を参考として性虐待行為の推察を行うことはある程度可能と思料される。
また、大腿部に一つの内出血があるからと言って、そのことのみで断定できず、それは性虐待の存在を疑わせるが、確定を導くには他の総合的所見をかんがみることとなっている。
被虐待児の15%が身体的にも虐待されているとされ、その殆どは挫傷や裂傷等の鈍器損傷であり、切創や刺創などの鋭器損傷はまれである。更に、熱傷を伴う事例も相当数ある。児童の熱傷については、特に腹部や大腿部のものは性的虐待の存在を疑い得る確率が高くなる。児童の熱傷が、他者のよるものであった場合には、それが事故であったとしても、事故をおこした他者の心理的状況や心理的傾向は、性虐待を起こした加害者や家族の心理的状況や心理的傾向と共通する所がある様に推察される。
また、一般に、児童虐待の疑われる状況において、熱傷や火傷の存在は、後に致死的状況を招く指標となると推察され、他の状況と鑑みて、母子分離等の行政的な対応が必要となることも多い。
……性器損傷、非性器損傷に関わらず、小児において、損傷の治癒は比較的早く、損傷が存在しないことは、性虐待行為がなかった事を意味しない。また、性器損傷において、瘢痕が遺ることは比較的稀であり、瘢痕が遺されていることが性虐待行為の存在を示唆する可能性が高いとも言われる。
脳科学の進歩により、様々な虐待、特に児童虐待が、脳の機能領域に影響することが判明してきている。性虐待は、DV同様、脳の視覚野に強く影響することが分かっている。
(2) 性的虐待被害者の行動・特性
被害児の50%以上が表わす性的逸脱行為等が、性虐待の発見につながる。その他、心身症・アルコール・薬物乱用・自傷・行為障害は性虐待と関連性がある。更に、解離性同一性障害(多重人格)も、性虐待の後に非常に多く発生する。
しかし、上記事実の多くは、前述の非性器損傷と同様に、retrospective な報告によって得られた所見であり、必ずしも厳格な統計的裏付けを伴わない。しかし、同様な prospective な研究を行うことが不可能であり、性虐待が反復行為であることからも、retrospective な結果を参考として性虐待行為の推察を行うことはある程度可能と思料される。
また、性的虐待の被害児童が、他者に対して、必要以上に人懐こいという特質をもつことは、よく知られている。
(3) 性的虐待被害者の疾患・症状
Sexual Transmitted Disease (STD、性行為感染症)は非性的に発生することは稀であり、児童に STD が認められた場合、性虐待を疑う必要があるとされてきた。被虐待児の STD にリスクは幼少児で5%、思春期の児で25%とされてきたが、現在では思春期の定義における年齢の範囲をより広く捉える傾向にあり、このリスクの値は過小評価に相当するとも言える。特に、淋病の感染は性虐待の診断価値が高いとされる。
膣と肛門の双方が対象となるため、尿路感染症にも留意すべきである。
妊娠は性虐待の確定所見とされる。親子鑑定により、家庭内の者との、父子関係が確認された場合には、児童は家庭より分離する対応をとる。
脳科学的研究から、性的虐待やDVでは、うつ病や解離性障害、Post traumatic stress disorder (PTSD, 心的外傷後ストレス障害)、境界性パーソナリティ障害等になりやすい。性的虐待では、Psycogenic Non-Epileptic Seizure (PNES, 心因性非てんかん性発作)をおこすことがあるという。
性的虐待をうけて、成人になった人の77%に脳波異常がみられ、36%にけいれんの既往があるという。
成人の精神障害から過去の被虐待を疑うべきとする主張がある。被虐待体験の影響によるトラウマの治療的関わりがなされないままである場合、虐待→ Attention Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD, 注意欠陥・多動性障害)様症状→反抗挑戦性障害→素行障害→反社会的なパーソナリティ障害へ進展してしまうマーチ(march)があると考えられ、ヒステリー研究の当初の症例自体が実は性的な虐待によるものであったという。
自閉症スペクトラムのような明らかな発達障害や統合失調症等の一部は、幼少児期の被虐待体験に起因するとはみなされないが、それさえも誤診の場合があり、トラウマに関し、治療を可能な限り行うことが肝要である。
p.79-81
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