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ナポレオン刑法典における強姦罪から1980年12月23日の法律へ ~ フランス刑法における性犯罪の沿革

女性犯罪研究会編『性犯罪・被害 性犯罪規定の見直しに向けて』(尚学社)より

1.ナポレオン刑法典における強姦罪


19世紀初頭、世界の模範となったフランスのナポレオン刑法典(1810年)における強姦罪は重罪(重罪、軽罪、違警罪というフランス刑法上の犯罪の3分類中最も重い類型)であり、1832年に整備されたといわれる332条において、成人及び15歳未満の子供に対する強姦罪(10年以上20年以下の有期懲役)を規定し、333条で、被害者に対して特殊な地位にある者が強姦の重罪を犯したときも重懲役に処すると規定していた。

 

当時の強姦罪の保護権益は、多くの国と同様「風俗に対する罪」とされていたが、強姦の定義も客体の限定もなく、内容は解釈に委ねられていた。

当時の家父長制度の下で、強姦は「男性の所有物としての女性の侵害」と捉えられており、強姦を「女性の意思に反する又は同意に基づかない肉体的結合」として、女性への姦淫(性交)行為に限定する学説が多かった。1857年6月25日の破毀院刑事部判決は「この重罪は、被害者をその意思に反して濫用する行為により構成される」としていた。

 

1970年代の第2派フェミニズムの影響の下、このような「男性の所有物としての女性」という概念に批判がおこり、まず1980年に、旧来の強姦法からより中立的な性暴行法への改革が行われた。

 

 

2.1980年12月23日の法律


1970年代、欧米諸国で盛んになったフェミニズム運動は、家父長制度下で「男性の所有物としての女性の侵害」として規定された強姦罪(とそのような刑法を指す強姦法)を厳しく批判した。

それは、根底に差別があるという原理的な批判のみならず、男女問わず被害者個人の保護という視点が欠如しているために捜査や裁判における人権侵害が甚だしいという実際的な理由であった。

それを受けた形で立法された1980年12月23日の法律は、ナポレオン法典におけるシンプルな強姦罪規定を改正し、強姦罪(332条)と性的攻撃罪(333条)とを区別して規定した。


改正された条文は、「どのような性質であれ、他人の身体に対して暴行、強制又は急襲(不意打ち)によって犯されたあらゆる性的挿入行為は強姦とする」と定義される強姦罪(332条)と、「どのような性質であれ、他人の身体に対して暴行、強制又は急襲によって犯されたあらゆるその他の行為」と定義される性的攻撃罪(333条)とに分かれ、それぞれについて、「妊娠、疾病、身体障害、身体若しくは精神的欠陥ゆえに著しく脆弱な被害者に対して犯された場合、15歳未満の子供に対して犯された場合、武器を用いて若しくは集団によって犯された場合、実親若しくは養親によって犯された場合、又は被害者に対し権限がある者によって若しくは職業上の権利を濫用した者によって犯された場合」という加重事由が定められていた。

 

1980年法の改革の特徴は、

①強姦行為を初めて定義したこと、

強姦罪と性的攻撃罪を区別して規定し、後者を軽く処罰したこと、

③家父長制度の下で財産と同視された女性の侵害という観念を払しょくし、男女問わず個人的法益に対する罪という性質を全面に出したこと、その帰結として

④客体を女性に限定することなく、

⑤行為を姦淫(性交)に限定することなく、強姦を「あらゆる性的挿入行為」とすることにより、性中立的な内容に変更したこと、

被害者の脆弱性と加害者の悪質性に基づく加重事由を定めたことである。


このように、改正された強姦罪の下で、判例上、女性加害者による強姦罪(破毀院刑事部1985年1月4日判決)や男性被害者に対する強姦罪有罪判決(破毀院刑事部1987年6月24日判決)も出されて いた。

 


p.269-271 

  

性犯罪・被害―性犯罪規定の見直しに向けて

性犯罪・被害―性犯罪規定の見直しに向けて

 

 

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