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性暴力扇動商品と性犯罪者処遇プログラム

東北大学の大渕憲一らは、「アダルトビデオ」を七二人の「普通」の男子学生に見せる前と見せた直後に、強姦意欲に関する心理テストをして、「アダルトビデオ」視聴による強姦意欲をつくりだしたかを調査した。すると、「アダルトビデオ」の中でも、レイプビデオが一番有意に普通の男性に強姦神話と強姦動機を抱かせ、レイプシーンがない「アダルトビデオ」は、レイプビデオと比べると半分の率で強姦神話及び動機を抱かせるという調査結果が得られた。

 暴力ポルノの多くは、あたかも女性が性暴力を楽しむような強姦神話を狡猾に組み入れており、この調査でも、この種のレイプビデオを視聴した「普通」の男性の八割強は、視聴後にその強姦神話を信じるようになった。なお、強姦神話の一例は、「女性は強姦されたいと欲しており、無意識的に強姦されやすい状況に身を置いている」であり、強姦神話を信じる率と、強姦動機率は、比例しているとの結果が出ている。

 

なお、平成十八年『犯罪白書』は、現在全国的な規模で行われている、刑事施設における性犯罪者処遇プログラムで、主要な療法の一つとされる「認知行動療法」について、次のように述べる。

「性犯罪者は、特に性関係において、少しくらいなら大したことがない、被害者にも悪いところがあるなどの認知のゆがみが生じやすいと考えられています。したがって、自分の認知のゆがみのパターンを知り、それを修正させることによって再犯を防ぐことに役立つと考えられています」。

現行の性犯罪者処遇プログラムは、性犯罪者に多い「少しくらいなら大したことがない、被害者にも悪いところがあるなどの認知のゆがみ」を、性暴力扇動商品の深刻な類型である暴力ポルノグラフィーが、普通の男性の八割もに植えつけている事実を、遺憾なことにまったく認知していないようである。本プログラムにおいて、性犯罪者に性暴力扇動商品を批判する視点を育てさせ、このような商品の所持及び視聴を禁じるべきであろう。

スウェーデンにおいては、性犯罪者矯正プログラムを受ける人々の性暴力扇動商品の使用を禁止する規則を設けており、法務大臣が述べる理由としては、性暴力扇動商品の使用は、矯正教育の方針に真っ向から反するからである。性暴力扇動商品が促す性の様相とは反対の、人権を重んじる、人間の尊厳において平等な間主観的な性の様相を、本矯正プログラムにおいて教えるべきであろう。

 

近年、日本メディアにおける「性犯罪者」に関する言説及び、「小児性愛」という精神医学用語において、子どもに対する性虐待を遂行する者は、一部の「変質者」との社会認識が構築されている。しかし、明白な証拠の存在を法施行のあらゆるレベルで条件とする、現在の法社会体制の下で、性暴力を子どもに遂行して、咎めを受け得る人は、性虐待遂行時において、自己観察機能に支障が生じ、犯行の証拠の跡を隠す機能に障害のある、解離性障害(転移症状で、極度の場合は多重人格症状)の傾向がある人のみであろう。そうした障害を持つ人は、児童期において自ら虐待(特に性虐待)の被害に遭った人である。

そして、こうした障害を持たない人が、性的物象化が基礎を形成する性暴力欲を行動化した場合は、(特に自己防衛機能障害のある)被害者と時と場所を選んで、証拠の形跡が残りえない形で性暴力を遂行するため、何の処罰も受けない結果となる。子どもに対する性暴力は、社会に偏在する、人間の物象化と凌辱を中核とする性の様相・在り方そのものから構築されるのである。そして、メディアにおける、「性犯罪者」を異端視する言説は、解離性障害のない、多くの「普通」の人々が咎めなしに遂行する性暴力行為の無処罰化を促進する体制の一環として機能するのである。

 

 

柴田朋『子どもの性虐待と人権 社会的ケア構築への視座』(明石書店)p.106-108

  

子どもの性虐待と人権

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