The Reverberator

EFFORTLESS FRENCH

性暴力被害者に対する社会的物象化

児童性虐待サバイバーは、攻撃されると、起きた出来事を、認識し意識化する(海馬体が登録・エンコードする)プロセスが急激に遅くなるために、即叫んだり、訴えたりすることができない傾向がある。そして、こういった解離障害を持つ人を選び出す方法が実際に存在する。この解離障害者 の選別方法を使って周りの人に察知されにくい方法で痴漢行為を遂行すれば、電車内等の痴漢の検挙においては、現行犯のみとの(明確に条文化されていない)通念が警察にあるので、何の咎めも受けないでいられる構図になる。よって、痴漢現行犯検挙の原則は、解離障害を持つ児童性虐待サバイバーの性的再被害と、その無処罰状態を促進する。

 

痴漢以外でも、いやがらせを含める広義の暴行罪に該当する行為全般においても、被害者が被害を認知した時点で即時に通報されない限り扱わないという原則は、警察学校及び、仕事場で上司から主に口頭で警察官たちは学んでいる。

この即時通報の原則の根拠は、犯罪被害が認知された時点で、警察官が現場に出向いて、犯罪被害を認知させる証拠を現場で直接確認することにより、虚偽申請を防止して、間違って疑われた人を侵害する結果にならぬようにすることである。これは、支配欲・物象化欲・人権侵害欲から派生する類の犯罪でなく、過失による交通事故等の、過失を招かないような自己観察力、特に司法権力の視点から自己がどう映るかを意識して行動する機能の障害から派生する、「秩序と規律」に反する犯罪には、捜索方法として有効であろう。

 

警察等の司法は、サバイバーの再被害の極端な頻繁さと、すでにある心的外傷が、再被害によってさらに引き裂かれる苦痛の峻烈さは理解しがたく、前述にもある通り、単なる「被害妄想」と判断する傾向がある。よって警察等の司法は、被害直後に即通報できないサバイバーの精神的信頼性を疑い、再被害の事件化を拒否するのである。

「秩序と規律」を中核とする、被害認識直後の通報の原則は、(性的ならびに非性的)被害という出来事を被害時点で意識化できない、(軽度でも)解離障害がある人たちを、さらなる人権侵害の標的にする社会通念を効果的に促しており、その無処罰化も保障している。

 

特に警察においてよく用いられる、明白に現存する証拠の法則、客観性の法則に反するものが「主観性」であろうが、その最も結晶された形が、性暴力加害者が、性暴力被害者に関する虚偽の「噂」を流布する社会現象であろう。

性暴力被害者を、コミュニティーにおける「悪者」と集団的に認識させる社会現象は、人間関係における信頼の濫用を基盤として機能する。噂の対象となる人の側に、対等に発言する機会をまったく与えずにして、友人・親族等が述べる、その噂の対象者がなしたと言説化される「悪い」行為の存在を信じる課程は、その人間関係における信頼を、噂の対象者(性暴力被害者)を社会的に物象化する形で、強化・肯定し、コミュニティーの「良化」という自己認識と、「味方」意識を促進させる。

 

警察等が用いる明白に現存する証拠の法則は、噂の主観性の法則と交錯して、性暴力被害者の精神的・法的・社会的信頼性を剥奪し、社会的物象化を介して(特に心的障害を持つ人々に対する)性暴力の無処罰状態を促進する。また、「噂の被害に遭っている」という性暴力被害者の主張自体が、精神医療と警察において「妄想症」「統合失調症」と容易に判断する客観的暴力は、性暴力被害者の法的・社会的信頼性の剥奪と社会的物象化を軸として、サバイバーの抑圧の連鎖を、前記の客観性・主観性の法則の交錯点で繰り広げるのである。

 

サバイバーの再被害現象とは、客観的暴力の一種であり、そして、この客観的暴力は、社会・経済制度だけでなく、司法と精神医療における児童性虐待サバイバーの再被害現象から考察されるように、現存する司法と精神医療体制の「客観性」の構築においても必要不可欠な暴力であり、司法・精神医療の、制度的オペレーション・「普通」の営みにおいて偏在的に遂行されている。

再被害現象という、客観的な暴力への対応としての主観的な暴力は、サバイバーの心を壊し、うつ病、自殺といった心理現象に多くは現れているようである。

現存する司法・精神医療・社会における「客観性」の構築と、司法・精神医療・社会における、サバイバーに対する合法化され、制度化された不可視的暴力は、相互に連座し、相互に構築されてきている。

 

 

 柴田朋『子どもの性虐待と人権 社会的ケア構築への視座』(明石書店)p.50-53

 

 

子どもの性虐待と人権

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