女性犯罪研究会編『性犯罪・被害 性犯罪規定の見直しに向けて』(尚学社)より
1.若年者・弱者への類型的保護と近親姦罪の復活
日本と異なり、フランス刑法の性犯罪規定は、若年者・弱者への類型的保護が特徴である。その保護には、被害者の属性に対する保護と加害者の属性(あるいは加害者と被害者の関係)による保護という2つの型がある。
まず、被害者の年齢を理由とする保護として、いわゆる性交同意可能年齢は日本が13歳以上であるのに対し、日本人より男女とも成長が早いと思われるフランスでは15歳以上となっている。「暴行、強制、脅迫を用いることなく、又は不意を襲うことなく、成人が15歳未満の未成年に対して行う性的攻撃は5年以下の拘禁及び(又は)7万5千ユーロ以下の罰金に処する」(227-25条)という規定は、性犯罪とは別の第7章「未成年者及び家族に対する侵害」の章に設定されている。
しかし、日本でよく言われる「中学生の恋人同士が同意の上でなす性行為も処罰の対象になるのではないか」との危惧は、フランスでは当てはまらない。
行為の主体は成人に限られているため、中学生同士や高校生同士など同級生間での合意による性行為は処罰されない上、たとえある程度の年齢差があったとしても、被害者の告訴がない場合に、国家が強制捜査や起訴をする事態はフランスでは考えられない。
性犯罪は日本のように他の犯罪と区別して親告罪という形をとってはいないものの、捜査の端緒は被害者の告訴であり、「本人同士が合意の上で行う行為を他人や国家権力が干渉することなどあり得ない」との社会的コンセンサスがフランスには厳然として存在する。
日本のように人権意識が希薄な社会で、国家権力(警察)による個人の人権侵害の危険が危惧される社会とは、前提条件が大きく異なるといえよう。
さらに性交同意可能年齢である15歳以上の未成年であっても、①尊属又は養親その他被害者に対して権限を有する者による実行の場合(2010年に追加)と②職務上付託された権限を有する者による実行の場合には、暴行、強制、脅迫、不意打ちがなかったとしても、2年以下の拘禁及び(又は)3万ユーロ以下の罰金で処罰される(227-27条)。
続く227-27-2条は、フランスでかつて宗教上禁止されるべきと考えられてきたものの、ナポレオン法典では同性愛処罰と同様不問に付された「近親姦罪」を刑法典の中に復活させたと話題になったものである(2010年に追加)。すなわち227-25条ないし227-27条に規定する行為が、家族内で尊属又は養親その他被害者に対して権限を有する者や、兄弟、姉妹によって行われた場合は、近親姦とみなされる(2010年に追加)。
未成年者に対し近親姦罪が行われた場合、民法378条及び379-1条に規定するあらゆる親権は剥奪される(227-27-3条)。
これらの規定はもちろん復古趣味で復活されたのではなく、宗教上の禁止とは無関係に、家族という外部の目が届きにくい閉ざされた場で、親や保護者という強い立場を利用して弱い立場の子供に対し性的虐待が頻繁に行われる現実を直視し、実態に即した処罰規定とともに、即時の親権剥奪も規定したものである。
2.夫婦間暴力に対する厳格な処罰
フランス刑法は、世界でも珍しく、夫婦間強姦を通常の強姦より重く処罰している(2006年に加重事由として追加)。夫婦間強姦を否定する学説さえ存在する日本はともかく、欧米先進国のほとんどが夫婦間強姦を通常の強姦罪と同等の刑罰で処罰している。
その中で2006年にフランス刑法が夫婦間強姦の刑の加重に踏み切った背景には、長年プライバシーに属する領域として公的保護の外に置かれ、被害者の保護が不十分であった家庭(いわゆる親密圏)におけるあらゆる暴力を白日の下にさらし、権力関係による構造的な暴力と捉え直して厳しく処罰することにより、その中で虐げられてきた女性を中心とする弱者の人権を厚く保護する姿勢がある。
配偶者又は内縁のパートナーにより実行された場合が加重事由になっているものは性犯罪に限らず、暴行、傷害、野蛮行為、殺人罪などあらゆる主要な犯罪の加重事由となっており、いわゆるドメスティックバイオレンス(配偶者間暴力)を特別法ではなく、刑法上厳しく処罰する結果となっている。
そのような姿勢を新刑法典立法当時(1992年)から貫いてきたフランスにとって、ドメスティックバイオレンスの一部として夫婦間強姦(性的攻撃)を通常の強姦(性的攻撃)より重く処罰することは、自然な流れだったといえよう。
p.273-275
【関連】
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