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反道徳性から性的自由に対する侵害へ ~ イタリアにおける「性暴力」の罪

女性犯罪研究会編『性犯罪・被害 性犯罪規定の見直しに向けて』(尚学社)より

1996年の性犯罪規定の改正でもっとも重要な点は、性犯罪の規定を、社会的法益に対する罪から、個人の性的自由に対する罪に大きく改めたことである。それは、性的自由の保護を実現するために、規定の位置を個人の自由の罪の節における609条の2以下に移しただけでなく、実質的に性的自由の保護の規定とするために、強姦罪と猥褻罪の区別を取り払った点に重要な意義がある。

 

すなわち、改正前は、強姦罪(519条)と強制猥褻罪(521条)を区別して規定していたが、強姦行為と猥褻行為を統一して「性暴力」の罪として、609条の2に規定したのであった。

「姦淫」と「猥褻行為」を統一する目的は、つぎの2つにあった。第1は保護法益と規定との体系的整合性である。

 

かつては、強姦罪と猥褻罪とは、公道徳および善良な風俗という社会的法益に対する罪であったことから、強姦行為と強制猥褻行為とは、社会に対する反道徳性の相違という観点から区別されて規定されていた。

 

すなわち、夫以外の男性の子の妊娠をもたらし社会秩序を乱す強姦行為と妊娠を生じない猥褻行為とでは、反道徳性に違いがあった。

しかし性犯罪規定を個人の性的自由の保護の罪と解するとき、問題は、被害者の性的自由がどの程度侵害されたかが問題なのであり、両者の行為の違いは必ずしも決定的な意味を持たなくなったのである。

 

第2には、捜査段階の被害者の保護という観点である。すなわち、性犯罪の被害者は、捜査の過程で、プライバシーを侵害する尋問にさらされて、被害者の人権は著しく侵害されたが、この捜査実務を終わらせる意味を持つことであった。

つまり、強姦と強制猥褻行為との区別について、それまで判例通説は、行為者の生殖器の挿入の有無に求めてきた。そのため公訴を提起するには、強姦であったのか強制猥褻行為であったのかを明らかにするために、行為者の生殖器がどの程度まで被害者の生殖器に挿入されたかを探究することが、捜査の過程での重要な問題となっていたのである。

しかし、性暴力の罪への統一により、強姦か強制猥褻行為かを分ける意義は存在しなくなったため、被害者のプライバシーを侵害する些細な事実の探究に努める必要がなくなったのである。

 


刑法第609条の2(性暴力) 

いかなる者も暴行または脅迫により、または権限の濫用によって何人かに性的行為を行い、またはそれに服することを強いるものは、5年以上10年以下の懲役に処罰される。以下の状況で、何人かに性的行為を行い、または服することを教唆した者は、同様の刑に処せられる。
①行為の時点で、被害者の肉体的または精神的劣位の状態を利用した場合
②犯人が他の者と代替するために、被害者を欺いた場合
重大性に欠ける場合には、刑は3分の2を超えない範囲に至るまで減刑される。

 

第609条の3(加重事由)
1 第609条の2の行為が、以下の状況で行われた場合には、刑は6年以上12年以下の懲役となる。
①14歳に達していない者に対する場合
②武器またはアルコール物質、催眠性薬物または麻酔性薬物または、被害者の健康を著しく侵害する器具または物質を用いることにより
③偽装した者(persona travisata)または公務員または公的サービスの権限を偽装した者によって
④身分上、自由の制限に服する者に対して
⑤行為者が尊属、養親も含む両親、後見人である場合で、18歳に達していない者に対して
⑤の2 被害者の教育施設または育成施設の内部または直近において
⑤の3 妊娠中の女性に対して
⑤の4 犯人が配偶者(別居中または離婚した場合も含む)または愛情関係(同居を欠く場合も含む)にある場合

2 行為が10歳に達していない者に対して行われた場合には、7年から14年の懲役の刑に処せられる。

 

第609条の4(未成年との性的行為)
1 前条で規定された場合に該当しない場合であっても、行為の時点で以下の状況にある者と性的行為を行う者は、いずれも609条の2によって定められた刑に処せられる。
①14歳に達していない者
②行為者が、尊属、養親を含む両親、その同居人、後見人または治療、教育、訓育、監督、監護の理由により未成年者を委ねられた者または未成年者と同居している者で、未成年者が16歳に達していない場合
2 第609条の2で規定された事由に該当しない場合で、尊属、養親を含む親または同居者、後見人または監護、教育、訓育、監守、または保護のために未成年者を委ねられた他の者、またはこの者と同居する者がその地位に関する権限の濫用により、16歳に達した未成年者と性行為を行った者は、3年以上6年以下の懲役に処せられる。
3 第609条の2で規定された自由に該当しない場合で、13歳に達した未成年者と性行為を行った未成年者が、行為者間の年齢差が3歳を超えない場合には処罰されない。
4 重大性を欠く場合には、刑は3分の2まで減刑される。
5 被害者が10歳に達していない場合には、第609条の3第2項の刑が適用される。

 

第609条の5(未成年を堕落させる行為)
目撃させるために、14歳以下の者の面前で性的行為を行う者は、1年以上5年以下の懲役の刑に処せられる。行為がより重大な犯罪を構成する場合を除いて、性行為の時点で、性行為に誘導する目的または服させる目的で、14歳以下の者に目撃させる者またはポルノグラフィーを示す者は、同様の刑に服する。
行為者が尊属、養親を含む親、それらの者の同居者、後見人、またはその他、治療、教育、訓育、監督、または監護のために未成年者を委ねられた者、またはこの者と継続して同居する者である場合には、刑罰は2分の1まで加重される。

 

第609条の6(被害者の年齢の不知)
第609条の2、第609条の3、第609条の4、第609条の8および第609条の11に規定された犯罪が18歳以下の者を被害者として行われた場合は、第609条の5の犯罪の場合と同様に、行為者は被害者の年齢の不知を、避けることのできない場合を除き斟酌すべき事情を主張することはできない。


第734条の2(性暴力行為による被害者像及び被害者の身元の漏洩)
第609条の2、第609条の3、第609条の4、第609条の5及び第609条の8により規定された犯罪の場合に、マスメディアによる場合も含めて、被害者の同意なしに、被害者像および被害者の身元を漏洩するいかなる者も3ヶ月以上6か月以下の拘留の刑に処せられる。


刑事訴訟法第472条第3項の2
刑法典第600条、第600条の2、第600条の3、第600条の4、第601条、第602条、第609条の2、第609条の3および第609条の8に規定された犯罪に関する審理は、公開で行われる。但し、被害者は、その一部についてだけでも、非公開で手続きを行うことを求めることができる。被害者が未成年の場合には、常に非公開の手続きで行われる。その手続きにおいては、事実の再現に必要でない場合には、被害者の私生活または性に関する事実についての尋問は認められない。

 

 

 p.301-312

  

性犯罪・被害―性犯罪規定の見直しに向けて

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