アニタ・ロバーツ『自分を守る力を育てる セーフティーンの暴力防止プログラム』(園田雅代 監訳、金子書房)より
性的暴行 非難と責任についての明瞭な像
ジェンダーにもとづいた思い込みには、女性のもつ性的な力に関するもの、ならびに「男性は性衝動の奴隷だ」というものがありますが、そういった思い込みは私たちの文化の中心にはびこっています。
私たちの価値体系や社会的ならびに法律上のシステムは、これらの思い込みによって根本的な次元のことが形成されています。
そして、性的暴行の問題を考えるうえで深く埋め込まれているのが、「それは女性自身の過失による」という、頑迷で根強くあり続けてきた文化的な声なのです。
女性のふるまい方や装い方などに関して非難が女性自身に向けられます。この問題に関する偏った見方は、多くの男性や女性、十代の子どもの態度にも明らかに表されています。性的暴行についての法廷では、それがたとえ小さな女の子であっても、裁判官が女性を責めやすいことも知られています。
法的な判断に関する以下の項目は、すべて最近の新聞記事に載せられたものですが、この問題をより詳しく浮き彫りにしています。
ブリティッシュ・コロンビア紙
バンクーバー郡法廷裁判官は、性的暴行の被害者である三歳の女の子について「彼女が性的に積極的であるから」と語り、加害者に執行猶予を言いわたしました。検察当局はひどく不当な判決だとして上告しましたが、ブリティッシュ・コロンビア控訴裁は男性側の主張を認め、検察の控訴を棄却しました。控訴裁判事は、被告人へ課される刑を判断する際には、三歳の子どもの品行についても考慮されるべきであると宣告したのです。
オンタリオ紙
女性へのレイプと殴打に関して有罪判決を受けた男性に、刑として週末九十日の労働奉仕が科されました。判事は判決のなかで、「男性は、健全な家庭の出である」と述べました。そして「暴行があったとき、被害者は酔っ払っていた」と説明し、「加害者はその後、胃潰瘍になっている。こらは彼が後悔している証拠だ」と指摘しました。そして最後に「婦女暴行は非常にトラウマティックであるけれども、一時的なものである」と結論づけたのです。
フロリダ紙
ナイフを突きつけ女性をレイプした罪に問われている男性に対し、陪審員は無罪を言いわたしました。陪審員はレポーターに向かい、「女性があのような格好でいたのですから、彼女自身が求めていたってことでしょう。私たち陪審員はそのように感じたわけです」と話しました。
ブリティッシュ・コロンビア紙
裁判官は、十三歳の女子生徒に繰り返し性的暴行をしていた元教師に対し、四十五日間の刑を宣告しました。被告は、裁判に訴えられていないほかの女子生徒への性的暴行についても同様に認めました。それにもかかわらず裁判官は、「よい教育評価をこれまで得てきた教師を長期に拘置したくない」と述べました。さらに、裁判官はこの加害者について、「カナダの秩序」とも評したのです。
ブリティッシュ・コロンビア紙
陪審員は裁判所から、「性的違法行為の告訴をするのは簡単だが、反証をあげることはとても難しい」と聞かされ、養女に繰り返し性的暴行を加えていたとして起訴された男に対し、無罪を言いわたしました。その裁判官は陪審員に対し、「性的なノイローゼやファンタジー、あるいは遺恨によってこのような訴えが誘発されやすい」という警告を与えていたのです。
ブリティッシュ・コロンビア紙
陪審員は、「暴行の被害者は真夜中に一人で公園内を歩いていたという点で、ある程度、責任がある」と宣告しました。被害女性は帰宅途中に加害男性によって、わき腹にナイフを押しつけられ、墓場まで連れていかれたのですが、この加害男性には、かつて女性にナイフを突きつけて服を脱がしたという前科がありました。
ブリティッシュ・コロンビア紙
1987年、州裁判所の裁判官は、十三歳の女の子に性的暴行を行った罪に問われている男性に対し、執行猶予を与えました。裁判官は「加害者は模範的な社員であり、暴行は彼の性格から考えられないことだと同僚が言っている」と述べました。「彼を収監することは、被害者とその家族にとって復讐以上の目的がないように思われる」とも裁判官は述べました。
ちなみにこの裁判官は、面会禁止になっていた内縁の妻を酔って暴行した男性に対し、わずか五日間だけの拘置を決定した人物でした。
p.208-211
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