キャロライン・M・バイヤリー『子どもが性被害をうけたとき お母さんと、支援者のための本』(宮地尚子、菊池美名子、湯川やよい 訳)より
子どもを自分の夫に虐待された母親なら、「子どもの養育についての自分の権利を知りたい」と真っ先に考えるでしょう。虐待事件が捜査中ならば、子どもは里親の下で保護されているかもしれません。そうすると、まず親権が問題になってきます。
この場合は、女性のためのシェルターやレイプ救援センターに早めにおもむきましょう。法律や、とるべき諸手続きは州によって違いますが、司法手続援助者が、これから対処すべき事がらについて情報を提供してくれます。
自分の権利に関する確かな情報を得るまでは「いかなる書類にもサインしてはいけない」とアドバイスする母親もいます。(……)
性的な虐待をうけた子どもの母親がレズビアンであった場合、その性的指向が問題にされることが時々あるようです。よくあるのは近親姦で、その子の父親が加害者であった場合です。
たとえば、父親が子どもの親権を獲得するために、母親の性的指向を持ち出す(「レズビアンの母親は子育てには不向きだ」と主張したりする)かもしれません。
また、虐待を訴えられた時も、「彼女は自分の親権を得たいから、虐待をでっち上げているだけだ」と言い逃れしようとする可能性もあります。
虐待の訴えやカウンセリングに同性パートナーを同伴する時も、注目を浴びるかもしれません。このような問題を抱えた場合は、しっかりした支援ネットワークをもっておくことが欠かせません。
また、近親姦とレズビアンの母親の親権問題について詳しい弁護士に相談しましょう。
p.78、p91-92
【関連】
- 子どもの性的虐待を発見するきっかけ ~ 医学的視点から
- アメリカにおける子どもの性的虐待をめぐる典型的な司法手続きの流れ
- 子どもの性的虐待に関する法的世界 糾問的制度と弾劾的制度
- 他人の境界を侵害し彼らを利用するような人は加害者と称される、境界は教える必要がある
- 女性は少年をレイプできるか? あるいは少年は(年上の男性による加害行為以外に)被害を訴えることができるか? ~ 性的虐待を性的通過儀礼として捉えること
- セクシュアルハラスメントは「そのような関係」にある個人と個人の境界線の問題
- 少年への性的虐待は映画ではどう描写されているのか、あるいは何が描かれていないのか
- 性暴力における被害者非難と法的判断
- 反道徳性から性的自由に対する侵害へ ~ イタリアにおける「性暴力」の罪
- 秘密の開示 ~ 自分よりさらに助けを得られない立場にある年下の同胞を守るために
- 未成年の性犯罪被害者に対する公訴時効 ─ 日本、フランス、ドイツ、韓国の現状
- 性暴力にかかわる言葉を被害者の視点から定義しなおし、確立していくこと、語りはじめること、たどたどしくとも語りはじめること、沈黙をやぶったその声を大きく広く響き渡らせること
- ”自殺したいと思っていい。でも、実行はしないで” ~ 性暴力被害者の心の危機
- 児童虐待経験者の親密関係は飢えた者のように庇護とケアを求める衝動によって駆り立てられており、見捨てられるのではないか、搾取されるのではないかという恐怖につきまとわれる
- フランスにおける性交同意可能年齢の意味することと、夫婦間(親密圏)強姦の加重事由が意味すること
- ナポレオン刑法典における強姦罪から1980年12月23日の法律へ ~ フランス刑法における性犯罪の沿革
- 性的虐待の経験が被害者の性的指向を決めるわけではない
- 境界線 ~ 自分の感情的なスペース、自分の身体的なスペース
- 被害者が加害者から逃げるのではなく、加害者を被害者から切り離すこと
- パニック発作やフラッシュバックが襲ってきたときに
- 多重被害者 ~ 被害とは出来事というよりも、そのような状態である
- レイプが性行為の一種ではなく、暴力犯罪の一種になったとき
- わが子を虐待した加害者を赦すべきか?
- ”子どものころに性虐待を受けたあなたへ”
- 性的虐待順応症候群
- 加害者は自分の性的な強迫行動を防衛するために、それを正当化する巧妙な知的システムを発展させる ~ いじめと性的虐待
- なぜ子どもが犯罪被害に遭いやすいことが広く認識されてこなかったのか ~ 相殺される被害と加害
- 聖ディンプナ - 彼女はレイプ、強制的な結婚、近親姦に抵抗した、そして彼女は精神的な病を患った人たちの守護聖人になった
- 性的虐待被害者に強いられる金銭的負担
- 恐怖構造の引き金は簡単に引かれ、消すことが難しい
- 接触のない性的虐待 ー 性的悪用、セクシュアリティの乱用、境界侵犯
- 〈自分が信頼できる人を選んでよいのだよ〉という保証を被害者に与えること
- なぜ子どもへの性的虐待加害者の行動原理を知らなければならない必要に駆られるのか。それはこの社会ではこれまでずっと被害者の声が無視されてきて、そしてこれからも被害者やその家族、友人、知人、支援者たちがいないことを前提にした「組織的暴力」によって被害者と加害者が同列に置かれ、時にまるで被害者らの心の痛みよりも加害者の欲望を優先させるかのような要求を突き付けられ、それによって被害者たちがさらに、これまで以上に、沈黙させられてしまうからだ──そのような世界の中にあっても居場所を探さなくてはならないからだ。
- 性的虐待への反応 ー 侵入思考、過覚醒、悪夢、夜驚、麻痺、再体験、解離、健忘、フラッシュバック
- 「性的裏切り」「性的虐待」「近親姦」「トラウマ」
- ミーガン法の弊害
- ぼくの話を聞いてほしい
- 標的の充足力、標的への敵意、標的の脆弱性 ~ 被害者学の視点から
- 沈黙の共謀 ~ 「誰にも言うなよ」と加害者が強いる沈黙、被害者が守ろうとする沈黙、そして被害者が語れない環境を温存している社会全体が培養する沈黙
- 児童期に性犯罪被害に遭わなかった幸福な人たちにあわせて社会をつくるのではなく、児童性的虐待被害者たちが暮らしやすい社会にするよう配慮すること
- デート中の出来事──少年と少女の性暴力
- セックス・リング 同一の加害者の下で複数の被害者が抱いてしまう共犯意識
- 「被害者の責務でしょう、あなたたちがやらないと変わりませんよ」 ~ 「泣き寝入り」という言葉の暴力
- 子どもの性的虐待の理解 ~ 虐待の程度および虐待の性質
- 女性による男児への性的虐待という現実と、女性による男性あるいは少年への性的虐待は定義上不可能であるという誤った「男性的」世界観の間で
- 日本における少年への性的虐待に対する社会的認知
- 「なぜ私は加害者の弁護をしないのか」 ~ 性暴力と法
- 二次的被害によるPTSD
- 性暴力表現の社会問題化よる「調査者自身が受ける被害」
- 性暴力扇動商品による性の衝動化・中毒化
- 性暴力被害者に対する社会的物象化
- 性暴力扇動商品と性犯罪者処遇プログラム
- 性暴力扇動商品は、性暴力を消費者に扇動するのみならず、性暴力を容認し、無罪化する「社会通念」と判例傾向を促進する
- 「平等法」と「表現の自由法」は衝突へ向かっている。世界中において、「表現の自由」保障は、社会的不平等の問題や大幅な法的平等が必要であることなどに真剣に取り組むことをせずに発展してしまった
- クィアを標榜すればそれを望まぬ人たちに対して「性的な言動」を浴びせることが許されるのだろうか、クィアを標榜すればそれを望まぬ人たちに対して「直接的な性行為内容」をあらゆる場において受け入れるよう迫ることが許されるのだろうか、クィアを標榜すればそれを望まぬ人たちに対してペドファイルとその利害関係者の要求に従うよう恫喝することが許されるのだろうか