「うちの大学はグローバルでダイバーシティで今度はクィア・スタディーズもやるよ!」
「でも君の大学、非常勤講師の雇止めや語学インストラクターの使い捨てが問題になっているよね」
「でも、それとこれとは別だよね」
「別じゃない、それは大学で起きている搾取を他の”何かよいこと”──この場合はクィア・スタディーズ──で誤魔化しているんだ」
「問題じゃないか、それ」
「問題だよ、もちろん。これが『クィアたちのピンクウォッシング』だ。今度の場合、これまでのように『クィアの外部』に責任転嫁して、都合よく批判する立場を占めることはできない。そんな欺瞞はもはや通用しないよ!」
求人件名 早稲田大学文学学術院専任教員の公募(クィア・スタディーズ)
勤務形態 常勤(任期なし)
着任時期 2016年 04月 01日
備考 早稲田大学は、国際化、男女共同参画などダイバーシティの実現を推進しております。
https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?fn=1&id=D115040216&ln_jor=0
2013年3月末、突然、非常勤講師を5年で雇い止めにするという就業規程が非常勤講師らのもとに送られてきた。そうでなくとも首都圏大学非常勤講師組合などの調査によると、非常勤講師の平均年収は300万円そこそこで、そのうち250万円未満が4割もいるといい、彼らにとっては死活問題だ。
一方、専任教員の平均年収は、組合との団体交渉の場で副総長が約1500万円と明らかにしているが、実際には1400万円を切っていると専任教員たちは話している。授業計画の作成・実施、試験問題作成、採点、成績評価など、専任と非常勤の仕事内容に大差ない。
早大の教員のうち非常勤講師は59%(12年度末)で、授業の半分近くが非正規の教員によって行われている。つまり多数派の教員(ほとんどは博士)がワーキングプアか、それに近い状態に置かれているのだ。
“搾取”を土台とした大学――そこを出た人たちが中核をなしていく社会は、政治、経済、文化、科学、教育、家庭など社会のありとあらゆる分野で、搾取を「再生産」していき、格差を推し進めることになりはしないか。大学は、未来の社会の鏡であるがゆえに、心配、と言わざるを得ない。
【関連】
- クィアはクィアを「クィアとして」批判できるのか、しないのか、させないのか ~ 搾取を土台とした大学で平然と既得権側に回りつつ、それを糊塗するかのような「クィア・スタディーズ」が開催されようとするまさにその時に、”Queerwashing”として
- 大学教員自身が「クィアする」とき、学歴エリートを「クィアする」とき、そして「クィア・ポリティックス」として ~ 非常勤講師たちへの搾取の上に成り立つ大学の身分制度自体を問うこと、それに加担するのではなく「その特権」を問うこと、問い続けること
- 搾取を土台とした大学で──搾取する側に回りつつ、いかにしてその批判を回避させるのか ~ 「クィアポリティックス」から見えてくるエリート処世術
- ”我々は安定を望まない、それがクィアだ”──ただし大学教員は特権的例外とする ~ 「クィア・ポリティックス」そのものの両義性
- クィア・エリート ~ 大学における「勝ち組」あるいは低報酬非常勤講師らを踏み台にのし上がっていく者
- ピンクウォッシュから「クィア・ウォッシング」へ ~ 非正規雇用者切り捨て問題の渦中にある大学の「ダイバーシティ戦略」
- 非常勤講師の雇止め、インストラクターの切り捨て問題で揺れる大学で ~ それはピンクウォッシュ批判の嚆矢となるのか、それとも「それ自体」になってしまうのか
- 大学の「5年雇い止め」問題と「ダイバーシティ」教員募集の間に何があるのか
- 最低賃金以下のインストラクターが大学で切り捨てられる一方、その同じ大学で ~ ピンクウォッシング批判の恣意性が覆い隠すもの
- 「それ自体」の使い分け ~ あまりにも身勝手で自己中心的な大学関係者たち