グループ・ウィズネス編『性暴力を生き抜いた少年と男性の癒しのガイド』(明石書店)より
性暴力は、あなたがまだ子どもであったろうが、10代の少年であったろうが、大人であったろうが関係なく、あなたの心に大きな衝撃を与える出来事になるでしょう。この大きな衝撃により心が受ける傷を「トラウマ」と言います。
性暴力は、あなたの身が危険にさらされる出来事だったのです。緊急時に私たちのからだはうまく対応できるようにできているのです。脳は「戦闘態勢」に入り、からだ中に危険に備えるように指令を出します。とにかく生き残ることが第一目標になるため、起こったことが何を意味するのかといった思考や感覚は一時的に鈍ります。
ちょっとした危機のサインを感知して対応できるよう、からだ中のアドレナリンが高まり、覚醒状態になります。いつでも逃げられるよう、筋肉に酸素を送るため心拍数も上がります。常に反応できるよう、からだも緊張状態に入ります。つまり、リラックスした状態とはまったく逆の状態に陥ります。
そのため、怖いなどの感情を全然感じられなかったり、声が出なくなったりします。声を出すことは敵に居場所を知られることです。危険が迫ったとき、サバイバルするために声を出さないというのは当然です。このような反応は、性暴力の被害を受けた場合、当然の反応なのです。
p.62
3)パニック発作やフラッシュバックが襲ってきたら
人は、性暴力などのトラウマを受けたとき、脳が一時的に危険から身を守るために「戦闘形態」に入ると説明しましたが、被害が終わったあとも脳がこの「戦闘形態」を解除できなくなってしまうことがあります。そのため、常にからだは緊張し、周囲の状況に敏感になり、ちょっとした物音にもビクッと体が過剰に反応する状態が被害後も抜けないで、生活に支障が出てきてしまうこともあります。
パニック発作も、実際に危険が迫っているわけではないのに、なんらかの引き金で体が「緊急事態」に陥ってしまう状態です。危険が今そこに迫っているようにからだが反応するため、死んでしまうのではないかという恐怖に襲われるかもしれません。フラッシュバックもなんらかのきっかけで性被害のことがイメージとしてまた甦ってくる状態です。まるであの事件が今また起こってしまうような感覚を伴うでしょう。映像だけでなく、匂いや体温などもリアルに戻ってくるかもしれません。
パニック発作もフラッシュバックも苦しいですが、必ず過ぎ去ります。からだや脳が誤った情報処理をしていること、パニック発作で死ぬことはないこと、そして必ずパニック発作もフラッシュバックも収まることを理解しましょう。そして、危険はもう終わって、あなたは今、安全なのだということを思い出しましょう。
他のサバイバーも、同じような苦しさを経験しながらも、なんとか対応しながら回復していっています。
①サポーターと話す
信頼できる誰かと話しましょう。あるサバイバーは、パニック発作が起こったとき、自分の親友に電話をすることにしています。親友は、彼がパニック発作を持っていることを知っていて、サバイバーにこれはパニック発作で、死にそうな恐怖に襲われているかもしれないけれど実際に死ぬことはないこと、いずれ収まることを落ち着いた声で伝えます。それは、ほんとうにそのサバイバーにとってちからになる方法でした。フラッシュバックも同じです。
パニック発作やフラッシュバックは、性暴力のサバイバーには珍しくないものです。話すことで、パニック発作やフラッシュバックは収まっていくことがあります。友人、セラピスト、ホットラインなど、あなたのサポーターのちからを大いに借りましょう。
p.110-111
性暴力を生き抜いた少年と男性の癒しのガイド (性虐待を生きる力に変えて) (性虐待を生きる力に変えて―大切な存在であるあなたへ)
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