森田ゆり『新・子どもの虐待 生きる力が侵されるとき』(岩波ブックレット)より
性的虐待を受けた子どもの訴えを信じて力になろうとする大人が少ないことを子どもは知っています。米国の精神科医ローランド・サミットは1983年に「性的虐待順応症候群」を発表して、なぜ、性的虐待の被害児が嘘を言っているようにとられるのかを解き明かしました*1。
「サミットの言う順応症候群とは性的虐待を受けた子どもたちの当然な心理状態を意味する。それは病理症状ではなく、性的虐待に対する被害者のノーマルな心理反応であることをはっきりと認識しておくことが、この理論を理解するポイントになる。症候群は次の五つのカテゴリーに分類される。
- 性的虐待の事実を秘密にしようとする。
- 自分は無力で状況を変えることはできないと思っている。
- 加害者を含めたまわりの大人の期待・要請にあわせよう、順応しようとする。
- 暴行を受けたことを認めたがらない。又は事実関係が矛盾した証言をする。
- 暴行されたと認めたあとでその事実を取り消す。
性的虐待を受けた子どもたちがこの五つの典型的な反応パターンをとるその心理的動機としてサミットはいくつものことに言及しているが、次の三点に要約できると思う。
自分が悪かったと思いこんでいる罪悪感、加害者や家族が自分のことで困った立場へ立たされることへの不安。そして性的虐待が実証されてしまったら自分の身はどうなるのだろうという恐れ」
(森田ゆり「エンパワメント:子ども虐待に取り組む思想」『月刊イマーゴ』1993年6月号より)
p.49-50
新・子どもの虐待―生きる力が侵されるとき (岩波ブックレット)
- 作者: 森田ゆり
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/06/04
- メディア: 単行本
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*1:Roland Summit. Child sexual abuse accommodation syndrome http://www.abusewatch.net/Child%20Sexual%20Abuse%20Accommodation%20Syndrome.pdf